高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 平成29年度選考結果

2017表彰式
平成30年2月13日に表彰式がアルカディア市ヶ谷にて開催されました。


小柴賞NO.1

    

初井 宇記(理化学研究所 放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門)
「SOI技術を用いた広ダイナミック・レンジX線イメージセンサーの開発」

   

小柴賞NO.2

    

小嶋 健児(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所)
「高集積陽電子検出器システムKalliopeの開発と実用化」

         

諏訪賞

     

新井 康夫(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所)
倉知 郁生(高エネルギー加速器研究機構 先端加速器推進部)
「SOI技術を使った革新的ビクセルセンサーの実現」

    

熊谷賞

    

矢ヶ﨑 文昭(株式会社 電研精機研究所)
「ノイズカットトランスの発明、及び各種安定化電源の開発等、多年に亘る加速器科学への貢献」

       

選考理由一覧

小柴賞受賞者: 初井 宇記氏(理化学研究所 放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門)
研究題目「SOI技術を用いた広ダイナミック・レンジX線イメージセンサーの開発」
 
選考理由:
本研究では、最先端技術であるSilicon-On-Insulator(SOI)技術を用い、従来のX線検出器よりもはるかに広いダイナミック・レンジを持つ新しいX線イメージセンサーの開発に成功した。 開発したX線イメージセンサーは、SOI技術により、センサーと読み出し回路が一体化されており、さらに64.8×26.7mm^2という大きな有感面積をもっている。 また、広いダイナミック・レンジを実現するために、一つのピクセル内に多数のセンスノードを設けることで信号を分離し異なるゲインを実現するという世界で初めての手法を開発している。 本センサーは超高輝度XFEL加速器(SACLA)での実験用に開発され、カメラシステムとしても完成している。 現在は、XFEL、Spring-8、KEK-PFの複数の実験でカメラシステムの使用が開始されている優れた実績を持つ。 以上のように、本研究で開発に成功した新しいX線イメージセンサーは過去に例のない、優れた性能を有している。よって、本研究は小柴賞授賞にふさわしい内容である。  


小柴賞受賞者: 小嶋 健児氏(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所)
研究題目「高集積陽電子検出器システムKalliopeの開発と実用化」
 
選考理由:
本研究は、大強度Muonビーム実験のための超高計数率崩壊陽電子計測システム「Kalliope」を開発である。 プラスチックシンチレータとPPD、独自開発のASICとFPGAによる高密度信号処理ボードをコンパクトな一体型モジュールに収めることで、従来にない多チャンネル化と高計数率を実現した。これにより、J-PARC MLFの世界最強度パルスMuonによる物理測定が可能となった意義は極めて大きい。小嶋氏はこの開発研究において中心的な役割をになっていた。 システムは優れた拡張性と汎用性を有しており、今後J-PARC MLF以外のMuon測定にも活用されることが決まっており、特定の実験にとどまらないこの分野の計測のスタンダードになりつつあるという点も見逃せない。 以上のように、本研究開発は小柴賞授賞にふさわしい内容であると考えられる。  

 

諏訪賞:新井 康夫・倉知 郁生氏(高エネルギー加速器研究機構)
研究題目「SOI技術を使った革新的ビクセルセンサーの実現」
 
選考理由:
新井、倉知両氏は、先端的な半導体技術であるSOI(Silicon-On-Insulator)技術を導入することによりシリコンピクセルセンサーに革新をもたらし、これまでにない高精細、高機能、高検出効率を持ったピクセルセンサーの実現に成功した。 従来、半導体技術を用いたシリコンピクセルセンサーは、CCD検出器、CMOSピクセルセンサー、ハイブリッドピクセル型などが開発されてきたが、放射線検出器としてみた場合には、繰り返しが遅かったり、空乏層が薄く検出効率がほとんど稼げない、ピクセルサイズの制限により高精細が実現できないなど、高性能センサーとしては満足のいくものとは言えなかった。 新井氏は、これらの課題を解決するために、シリコン基板上に薄いシリコン酸化膜を介てCMOS回路層となる別の薄いシリコン層を貼り付けるというSOIウェファーを用いたCMOS集積回路技術に着目した。 これを利用することにより、SOIウェファーにおいて高抵抗のシリコン結晶を使うことで放射線に対して高い検出効率を持たせ、同時にその信号電荷を酸化膜を貫通した電極を通じて上層のCMOS回路層へ伝送して高機能な信号処理を行うことを可能とした。 このことにより、センサーと信号処理回路全体が一連の半導体プロセスだけで一体のチップ(monolithic chip)として製造することも可能となった。 新井氏と倉知氏は、このアイディアを基に、半導体製造のパートナーとして共同開発研究を開始し、10余年をかけて開発を進めたが、実用的な段階に達するには多くの技術革新を必要とした。 二人は新しいアイディア・議論と試験測定を繰り返し、これを乗り越えることに成功した。 この開発により実用への道が開け、SOPIXコラボレーションという一種のコンソーシアムを立ち上げ、国内外の潜在的なユーザーを掘り起こすことにも着手した。 これにより、1つのウェファー上に複数のユーザーが相乗りしてユーザーチップを試作しながら開発が進められるようになり、開発コストを軽減し技術の普及が大きく進むこととなった。 現在までに、既に、1)世界最大級のx線用monolithic chip(SOFIASチップ)、2)空乏層厚500μmのmonolithic pixel sensor(INTPIXチップ)、3)荷電粒子トラッキングで世界最高精度(0.7μm) (FPIXチップ)などの世界最高性能の検出器が開発されてきている。 基本的なアイディアから実用化までを我が国で貫徹されたという意味でも特筆すべきことであり、本開発研究は日本の技術が誇る偉業であり、諏訪賞の授賞にふさわしいと考える。  

 

熊谷賞:>矢ヶ﨑 文昭氏(株式会社 電研精機研究所)
研究題目「ノイズカットトランスの発明、及び各種安定化電源の開発等、多年に亘る加速器科学への貢献」
 
選考理由:
電研精機研究所が開発・製造した,各種実験用設備のノイズ障害防止を目的とした障害波遮断変圧器(商品名:ノイズカットトランス)ならびに各種安定化電源は,国内の多くの加速器施設において,加速器の開発・運転ならびに研究開発に使われてきており,加速器の性能向上と安定運転に大きく貢献してきた. この業績は,電研精機研究所の創業者である故矢ヶ崎昭彦氏とご子息である現社長の矢ヶ崎文昭氏の長年にわたる絶え間ない努力によるものであり,熊谷賞の授賞に値すると判断した.

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