高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 2025年度選考結果

小柴賞

    

      篠原 武尚 (日本原子力研究開発機構 研究主幹)
      伊勢川和久 (株式会社豊田中央研究所 研究員)
      加藤 悟  (株式会社豊田中央研究所 主任研究員)
      樋口 雄紀 (株式会社豊田中央研究所 研究員)
      吉宗 航  (株式会社豊田中央研究所 研究員)

     「中性子エネルギー選別イメージングによる多相輸送可視化技術の確立」

    

諏訪賞

    

       低速重イオン用超伝導線形加速器開発グループ 代表 坂本 成彦
       坂本 成彦(理化学研究所仁科加速器科学研究センター サイクロトロンチーム チームリーダー)

     「理研RIBFの低速重イオン用超伝導線形加速器の開発 ~設計、建設、ユーザー運転~」

                 

諏訪賞

    

      稲垣 隆雄 (高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)
      山中 卓  (大阪大学 名誉教授)

     「CP対称性を破るKL → π0 ν ν稀崩壊探索における革新的実験手法の確立と、
      長年にわたる新物理探索研究への実験的貢献」

         

諏訪賞

    

      Pranab Kumar Saha氏を代表とするRCSビームコミッショニンググループ
      Pranab Kumar Saha(日本原子力研究開発機構 研究主幹)

     「J-PARC RCSにおける設計ビーム出力1 MWでのビーム損失とビームエミッタンスの最小化」

      

熊谷賞

    

      山下 秀昭(元株式会社日立テクノロジーアンドサービス 筑波センタ長)
      平澤 裕二(株式会社日立テクノロジーアンドサービス 筑波センタ 主任技師)

     「加速器建設への長年の貢献および高精度電磁石据付技術の確立」

       

選考理由一覧

小柴賞受賞者: 篠原 武尚 (日本原子力研究開発機構 研究主幹)
      : 伊勢川和久 (株式会社豊田中央研究所 研究員)
      : 加藤 悟  (株式会社豊田中央研究所 主任研究員)
      : 樋口 雄紀 (株式会社豊田中央研究所 研究員)
      : 吉宗 航  (株式会社豊田中央研究所 研究員)

研究課題/業績:「中性子エネルギー選別イメージングによる多相輸送可視化技術の確立」
 
選考理由:
 従来の中性子イメージングでは液体の水と氷の区別は難しいが、長波長では氷の中性子全断面積が水のそれより小さいため、中性子が透過しやすく、コントラストが少しつきやすくなる。候補者らは、水と氷の高コントラストの実現、高い空間分解能と時間分解能の達成、大面積イメージングの実現により、大型の車載用燃料電池の凍結過程を観察する革新的な技術を生み出した。
 中性子を用いて燃料電池中の水分布を高い時空間分解能で可視化する試みは広く行われている。一方、 氷点下における燃料電池の始動や凍結融解サイクル中の凍結メカニズム等に関する知見を得るために、波長の異なる中性子を用いた、水と氷のイメージングも行われてきたが、精度や分解能が不足し、かつ、数センチメートル角程度の狭い視野に限られ、これらの従来研究は基礎研究にとどまっていたと言える。
 候補者らは世界で初めてパルス核破砕中性子源施設を用い30cm 角の広い視野を実現し、画素レベルでの誤差要因解析による水氷識別技術を開発、高い空間分解能と時間分解能を達成、さらに大型環境模擬装置を開発した結果、発電中の車載用燃料電池内部において水が凍結していく一連の挙動を可視化した。
 本技術は、氷点下環境で発電中の大型車載用燃料電池内部で起こりうる水の滞留・凍結・融解・排出挙動についての情報をもたらし、今後の燃料電池の理解と設計、検証を通して燃料電池の研究開発を加速することが期待されている。また、彼らの成果は著名な国際学術誌に掲載され国際的に認められている。
 以上の理由により、篠原氏、伊勢川氏、加藤氏、樋口氏及び吉宗氏の業績は小柴賞にふさわしい研究であると判断された。


 

諏訪賞受賞者: 低速重イオン用超伝導線形加速器開発グループ 代表 坂本 成彦
          坂本 成彦(理化学研究所仁科加速器科学研究センター サイクロトロンチーム チームリーダー)

研究課題/業績:「理研RIBFの低速重イオン用超伝導線形加速器の開発 ~設計、建設、ユーザー運転~」
 
選考理由:
 理化学研究所仁科加速器科学研究センター低速重イオン用超伝導線形加速器開発グループ(代表、坂本成彦氏)は、ニホニウムに続く超重元素探索実験のため、新たに超伝導空洞を用いた低速重イオン用の理研超伝導線形加速器(SRILAC)を建設し、加速電圧のアップグレードを実施した。このSRILACは、純ニオブ板から製造された10台のTEMモード4分の1波長型の超伝導空洞(QWR)から構成され、液体ヘリウムを用いて4Kで運転される。我が国で初めてとなる純ニオブ板から成形・溶接加工により製造されたQWRは、内閣府ImPACT藤田プログラム(藤田玲子プロジェクトマネージャー)の要素技術開発において、加速勾配6.8MV/mでQ0=1×109という空洞仕様を十分満たすものの開発に成功した。その後、10台のQWRは3つのクライオモジュールに統合され、2021年1月にイオンビーム加速に成功、現在に至るまで超伝導クライオモジュールにまつわる様々なトラブルを克服しながらイオンビームの安定供給を続けている。研究開発段階から安定運転に至るまでの業績は、ひとえに坂本氏を中心とした本グループメンバーの卓越した能力とチームワークによるものである。
 これらの顕著な業績が、諏訪賞にふさわしいと判断された。


 

諏訪賞受賞者: 稲垣 隆雄 (高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)
        山中 卓  (大阪大学 名誉教授)

研究課題/業績: 「CP対称性を破るKL → π0 ν ν稀崩壊探索における革新的実験手法の確立と、
          長年にわたる新物理探索研究への実験的貢献」
 
選考理由:
 稲垣隆雄氏および山中卓氏は、中性K中間子のCP対称性を破る稀崩壊探索という、標準模型の精密検証と新物理探索の双方において極めて重要かつ挑戦的な研究課題に対し、長年にわたり世界を先導する実験的貢献を果たしてきた研究者である。とりわけ、大強度陽子加速器J-PARCにおけるKOTO実験は、両氏の先見性と卓越した指導力によって実現・発展してきた、我が国を代表するフラッグシップ実験の一つである。
 稲垣氏は、中性K中間子の稀崩壊探索において、「ペンシル状の高品質中性K中間子ビーム」と「全VETO型測定器」を組み合わせた革新的な実験概念を提案し、KEK-PS E391a実験として世界に先駆けてその実現と有効性を実証した。理論的不定性が小さい一方で分岐比が極めて小さい本過程の探索は、当時きわめて困難と考えられていたが、同氏は独創的な実験設計により、世界で唯一この課題に正面から取り組む道を切り拓いた。
 一方、山中氏は、FNALにおけるKTeV実験などを通じて中性K中間子物理を牽引してきた世界的研究者であり、KOTO実験では実験代表者として、装置建設、データ収集、解析に至るまで実験全体を統括した。特に、高性能CsIカロリメータの導入と背景事象抑制能力の飛躍的向上は、探索感度を一桁以上向上させ、世界最高感度での探索を可能とした中核的成果である。
 両氏の長年の業績により、日本においてCP対称性を破る稀崩壊探索の実験基盤が確立され、KOTO実験は現在も世界で唯一の存在として新たな物理領域の開拓を続けている。以上のような高エネルギー加速器科学への卓越した貢献は、諏訪賞にふさわしいものであると判断された。



 

諏訪賞受賞者: Pranab Kumar Saha氏を代表とするRCSビームコミッショニンググループ
        Pranab Kumar Saha(日本原子力研究開発機構 研究主幹)

研究課題/業績: 「J-PARC RCSにおける設計ビーム出力1 MWでのビーム損失とビームエミッタンスの最小化」
 
選考理由:
 Saha氏を代表とするグループは、一連のビームシミュレーションと系統的ビーム試験により、J-PARC RCSにおいて、設計ビーム出力1 MW運転時のビームエミッタンスおよびビーム損失の最小化を成し遂げ、残留放射線の大幅低減を実現するなどRCSの安定運用に大いに貢献している。RCSのビームエミッタンスの最小化は、中性子標的までのビーム損失の70%低減やMRのビーム出力増をももたらした。これら業績はPhysical Review Accelerators and Beams (PRAB)誌に掲載され、Editors’ suggestionにも選ばれるなど、国際的に注目を集めている。この顕著な業績を選考委員会は高く評価し、「高エネルギー加速器科学に対する特に顕著な業績」として諏訪賞にふさわしいものであると判断された。




 

熊谷賞受賞者: 山下 秀昭(元株式会社日立テクノロジーアンドサービス 筑波センタ長)
        平澤 裕二(株式会社日立テクノロジーアンドサービス 筑波センタ 主任技師)

研究課題/業績: 「加速器建設への長年の貢献および高精度電磁石据付技術の確立」
 
選考理由:
 山下秀昭氏と平澤裕二氏は、長年にわたり日立テクノロジーアンドサービス筑波センターにおいて、加速器建設の現場技術を牽引してこられた。両氏は、トリスタン電磁石の精密アライメント作業以来、KEK担当教官指導の下、セオドライト望遠鏡・レベル望遠鏡・その他の精密アライメントに必要不可欠な機器の取り扱い及び技術に習熟し、以降のKEKB・SuperKEKB・J-PARCなどの国家的プロジェクトにおいて、電磁石群の据付・精密アライメント作業において、高い技術力を持った信頼性の高い作業を主導された。
 山下氏は、狭小トンネルでの作業に対応するため、国内大型加速器では初の空気浮上式搬入台車や横引き装置などの新技術の導入に携わり、KEKB建設において大型電磁石・約1,600台、小型電磁石・約1,700台の電磁石群の据付・精密アライメントの完遂に主導的な役割を果たされた。SuperKEKB建設では、大型電磁石交換のための渡り吊りビーム設計を指導し、安全性と精度を両立させた。現場統括および安全管理に優れ、統合的リーダーとして組織を支えられてきた。
 平澤氏は、百ミクロン精度を要するアラインメント作業において卓越した技能を示され、SuperKEKBにおいて約2,000台の電磁石群の精密位置合わせを統括した。干渉の多い既設設備内で、安全かつ効率的な施工手順を確立するとともに、若手技術者への技能継承にも尽力された。両氏は加速器建設の根幹を支える実務技術の分野において、長年にわたる我が国の加速器開発を支えてこられた功績が極めて顕著である。J-PARC建設においても同様の業績から感謝状を贈られている。
 以上のように両氏の業績は、研究開発、施設建設など長年の活動を通して、加速器や加速器装置への顕著な貢献が認められ、熊谷賞にふさわしいものであると判断された。




 


選考委員

  木下 豊彦  (バキュームプロダクツ株式会社 先端機器事業部 上席研究員)
  神山 崇   (中国科学院 高エネルギー物理学研究所 破砕中性子源科学センター 上級顧問)
  加藤 政博  (広島大学 放射光科学研究センター 特任教授)
  仲井 浩孝  (高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 特別教授)
  中野 貴志  (大阪大学 核物理研究センター センター長)
  福西 暢尚  (国立研究開発法人 理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 加速器基盤研究部 副部長)
  道園 真一郎 (高エネルギー加速器研究機構 理事)
  森 俊則   (東京大学素粒子物理国際研究センター 特任研究員 名誉教授)
 


▲Back to top