高エネルギー加速器科学研究奨励会

代表理事挨拶

幅 淳二

 今期より、公益財団法人・高エネルギー加速器科学研究奨励会の代表理事を務めることとなりました幅淳二です。本奨励会からは、これまでも様々な形で研究コミュニティの一員として多大なサポートをいただいておりました。今度は微力ながらでも本会への貢献ができるよう努める所存でございます。加速器科学に関連する各界の皆さまからの引き続きのご指導とご支援を賜れますよう、よろしくお願いいたします。

 本奨励会の発足は1977年で40有余年の歴史は加速器学会よりさらに古いものです。当時日本の高エネルギー物理・加速器コミュニティは、いまだ世界のトップレベルには手が届かない状況でした。その後、目覚ましい勢いで我が国の加速器技術は発展を遂げ、1983年には世界に先駆けて軌道放射光を実用的な計測プローブとして提供するフォトンファクトリー(PF)の稼働が開始されました。さらに1986年には、電子陽電子衝突型加速器TRISTANで、超伝導加速空洞の本格活用により当時世界最高の衝突エネルギーを達成し、日本の高エネルギー加速器・物理学は名実ともに世界のトップレベルに並びました。さらにその後、そこで培われた技術、施設、そして、育成された人材により1999年から運転が開始されたBファクトリーでは、長年の師匠格であった米国SLAC研究所と、対等のライバルとして性能を競い合い、数々の高輝度電子加速器技術のブレイクスルーを生み出し、ルミノシティ(衝突輝度)の世界記録を続々と書き換えました。この成果がBelle実験による小林益川理論の最終検証を可能とし、両博士にノーベル賞をもたらしたことはよく知られております。

  また本奨励会発足当時、わが国初の「高エネルギー加速器」であった12GeV陽子シンクロトロンは、2009年東海村J-PARCとして生まれ変わり、いまや中性子源である3GeVリング、ニュートリノ源である30GeVリングともに、パルス当たりの陽子数において世界最高という、大強度量子ビーム源の国際研究拠点となっております。

  このように本奨励会の歴史は、まさに日本の加速器科学が世界のトップレベルに踊り出した歴史そのものであり、奨励会の存在がいかに大きなものであったかを如実に示しております。こうした世界拠点にふさわしい加速器を保持することで、わが国の基礎科学は世界中の研究者が集結する場となりました。

  残念ながらかつて我が国が世界の拠点として誇ってきた多くの分野においては、近年著しい地位の低下が指摘されております。こうした中で、いまだ世界拠点として優位にある加速器関連分野にはかってなく重要な意義があり、これを絶やすことなくむしろ次世代のイノベーションを我が国の主導で進めるうえでの原動力とすることが期待されます。このためにも、加速器科学に関連する産・学・官の研究者・技術者の密接な連携がこれまで以上に求められるところであり、本奨励会が、そこで果たすべき役割は極めて大きいと考えます。産業界、アカデミア、行政等、加速器科学関連分野の皆様より、高エネルギー加速器科学研究奨励会へのいっそうのご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 

2021年7月吉日

  公益財団法人 高エネルギー加速器科学研究奨励会
代表理事  幅 淳二