代表理事挨拶
今期より、公益財団法人 高エネルギー加速器科学研究奨励会の代表理事を務めることとなりました増澤美佳です。
高エネルギー加速器科学研究奨励会は、1977年の発足以来、約半世紀にわたり、日本の加速器科学の歩みをともにしてきました。この間、たゆまぬ技術革新と人材育成の積み重ねにより、我が国は世界でも有数の加速器科学の拠点へと大きく発展しています。
加速器は、B中間子、ニュートリノ、ヒッグス粒子といった素粒子の発見において、つねに重要な役割を果たしてきました。これらの成果はノーベル賞に結びつくような科学的快挙として人類の知を深め、私たちの宇宙や物質に対する見方を根本から変えてきました。
さらに現在では、加速器の活躍の場は基礎科学を越え、がん治療や創薬、材料開発、文化財の非破壊分析、精密な年代測定、さらには情報通信技術の基盤にまで広がっています。
こうした加速器科学の進展と社会的な広がりは、現代の社会が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の理念とも深く重なります。環境にやさしい新素材づくり、医療・健康の向上、エネルギー効率の改善など、さまざまな課題に対して加速器技術は直接的な解決手段を提供しています。
また、これからの科学技術には、多様性(ダイバーシティ)の尊重が一層求められます。さまざまな背景や専門性を持つ人々が交わり、協力し合うことで、より創造的で持続可能な社会イノベーションが生まれます。本奨励会と日本加速器学会では、若手・女性・国際的な研究者の参画を積極的に支援し、誰もが活躍できる、開かれた研究コミュニティの形成を目指しています。
日本は、世界トップレベルの加速器施設と、それを支える優れた人材を有しています。こうした強みを活かし、基礎研究のさらなる発展だけでなく、産学官民の連携を通じて社会課題の解決にも貢献していくことが、私たちに与えられた重要な使命だと考えています。
本奨励会はこれからも、加速器科学をつなぎ役として、社会との対話と協働を深め、次の世代に誇れる知と技術をしっかりと引き継いでまいります。今後とも、皆さまのご理解と温かいご支援を心よりお願い申し上げます。
2025年6月吉日
公益財団法人 高エネルギー加速器科学研究奨励会
代表理事 増澤 美佳