褒賞 - 2020年度選考結果
2021年5月27日に表彰式が高エネルギー加速器研究機構にて開催されました。
西川賞
方 志高(高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 准教授)
杉村 高志(高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 准教授)
佐藤 将春(高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 助教)
「BNCT用陽子線形加速器システムの実用化」
諏訪賞
J-PARCセンター加速器ディビジョン
代表 小関 忠(J-PARCセンター副センター長)
長谷川 和男(量子科学技術研究開発機構核融合炉材料研究開発部次長)
金正 倫計( J-PARCセンター 加速器ディビジョン ディビジョン長)
「J-PARC 3GeVシンクロトロンにおける 1 MWビーム加速」
選考理由一覧
西川賞受賞者: 方 志高(高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 准教授)
杉村 高志(高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 准教授)
佐藤 将春(高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 助教)
研究題目:「BNCT用陽子線形加速器システムの実用化」
選考理由:
本研究課題は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のために開発が進められている8 MeV陽子線形加速器システムに関するものである。この線形加速器はRFQとDTLの2つの加速空洞を単一のクライストロンで駆動する方式をとっており、Duty Factorが高いところに大きな特徴がある。
さて、BNCTに応用するためは、大強度ビームの安定加速が必須の条件である。しかしながら、異なるQ値をもち、温度上昇の影響を受けやすい高Dutyの空洞2つを、単一のRF源で安定に駆動することは非常に難しく、特に当初は電圧トリップからの復帰には30分もの時間がかかっていた。
そこで候補者らはまず、空洞の冷却水路を改良して、空洞の温度と共振周波数の関係を予測できるようにした。さらに、デジタルローレベル制御系を独自に開発して、最終的な加速周波数ではなく空洞の共振周波数でRFを立ち上げてから、空洞の冷却水温、DTLのチューナー、およびRF電力を連動させ、温度平衡に到達する時間を大幅に短縮した。また、空洞の電圧トリップから速やかに電力パルスを再投入するシーケンスを実装した。これらの工夫により、トリップからの復旧時間を5分以下に短縮することに成功した。現在では平均電流1.4 mA(ビームパワー11 kW)を2時間安定供給するという、医療に適用可能な性能が達成されている。
また、開発された手法の一部はJ-PARCリニアックのRF制御にも採用され、MLFの稼働率向上に寄与している。
以上のように、候補者らの研究は独自の発想に基づいており、その手法と結果は国際的な論文誌で論文発表がされているほか、特許出願もなされている。また、すでに加速器学会賞を受賞するなど、評価も高い。すなわち、西川賞にふさわしい研究であると判断された。
諏訪賞受賞者: J-PARCセンター加速器ディビジョン
代表 小関 忠(J-PARCセンター副センター長)
長谷川 和男(量子科学技術研究開発機構核融合炉材料研究開発部次長)
金正 倫計( J-PARCセンター 加速器ディビジョン ディビジョン長)
研究題目:「J-PARC 3GeVシンクロトロンにおける 1 MWビーム加速」
選考理由:
J-PARCセンター加速器ディビジョンは、J-PARC 3GeVシンクロトロン(RCS)のビーム出力を1MWで36時間運転することに成功した。
この成果は、イオン源やRFQの開発などによる電流の増加、LINACの新たな空洞の開発による400MeVへの加速とそれに伴うビームロスの低減、RCSの精密なシミュレーションに基づく「ペイント入射」による空間電荷効果の低減、フィードフォワードの手法を用いたビームローディング補償、正確なパルスを作るビーム入射用パルス電源の開発など、加速器全体の様々な新たな開発と改良に依るものである。
これらの成果は国際会議の報告だけではなく、Physical Review Accelerators and Beamsのfull paperにもまとめられている。
RCSのビーム出力が1MWを越えることは、Hyper Kamiokandeの実験に必要な条件の一つである。
したがって、この成果を出したJ-PARCセンター加速器ディビジョンは、「加速器科学の発展上、長期にわたる貢献など特に顕著な業績があった」という諏訪賞の条件を十分に満たす。