高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 2019年度選考結果

2019表彰式
2020年2月20日に表彰式がアルカディア市ヶ谷にて開催されました。

西川賞

    

満汐 孝治(産業技術総合研究所・研究員)
「ポジトロニウム負イオンの光脱離および共鳴光脱離の観測」

        

西川賞

    

足立 伸一(高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設・教授)
野澤 俊介(高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設・准教授)
「放射光X線による物質構造の超高速ダイナミクス計測法の開発と応用」

            

小柴賞

    

小谷 政弘(浜松ホトニクス(株)電子管事業部)
河合 輝典(浜松ホトニクス(株)電子管事業部)
「ハイパーカミオカンデ用Box&Line型 20吋径光電子増倍管の開発」

熊谷賞

    

深作 正博((有)双葉工業代表取締役)
「超重量加速器機器設置に関する低コスト・省労力化研究」

         

選考理由一覧

西川賞受賞者: 満汐 孝治氏(産業技術総合研究所・研究員)
研究題目「ポジトロニウム負イオンの光脱離および共鳴光脱離の観測」
 
選考理由:
高エネルギー加速器研究機構の低速陽電子実験施設においては、ながらく高エネルギー加速器研究機構のLINACグループ、東大の兵頭教授、東京理科大の長嶋教授らのグループを中心に陽電子の応用研究が進められてきた。
最近になって様々な応用事例が論文や学会でも報告されるようになり、物性研究者の間でもその有用性が認知されてきたところである。
候補者の満汐氏は、その応用事例の中でも、国際的に高く評価されているポジトロニウム負イオンの光脱離および共鳴光脱離の観測で中心的な役割を果たした。
具体的には計測装置開発、レーザーとの同期観測システムの構築や実験の実施、解析である。
この成果は、陽電子&電子2コからなるポジトロニウム負イオンビームをエネルギーが可変な状態で発生させることのできる非常に独創的な物である。
最近、産総研の研究員になり、今後産総研内の陽電子装置のアップグレードのみならず、高エネルギー加速器研究機構の陽電子実験施設の利用などにおいても中心的な役割を果たしていくことが期待できる。
以上のように、満汐氏の功績は、加速器利用に関する実験装置の研究について独創性に優れ、国際的に高く評価されている論文発表もなされているところであり、西川賞にふさわしい研究であると判断された。
 


西川賞受賞者: 足立 伸一氏(高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設・教授)
        野澤 俊介氏(高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設・准教授)
研究題目「放射光X線による物質構造の超高速ダイナミクス計測法の開発と応用」
 
選考理由:
 候補者の足立氏と野澤氏は従来の実験室系のX線光源では実現不可能なポンプ&プローブ方式の超高速時間分解X線構造解析手法を、KEK―PFのARリングを中心に開発し、応用研究を進めてきた。
 100ピコ秒のスケールでの時間分解構造解析手法としてのAR放射光の有用性を実証し、応用研究を進めただけでなく、彼らの研究のノウハウがその後のSPring-8等の施設での構造解析実験に影響を与えたことも評価できる。
 また、さらなる発展として、自由電子レーザーSACLAを用い、より高速(500フェムト秒)領域の時間分解構造解析にも成功している。
 それまでどちらかというと低エネルギー領域の分光を中心とした放射光の時間分解実験を、構造解析による物質の具体的な動的観察にまで発展させた功績は大きく、足立氏がこの分野のリーダーとしての能力を発揮したことと野澤氏の実現のための努力によるところが大きい。
 審査資料として提出された論文のうち、光誘起相転移に関する研究は、国際的にも大きく評価されている。
 以上のように、両氏の功績は、加速器利用に関する実験装置の研究について独創性に優れ、国際的に高く評価されている論文発表もなされているところであり、西川賞にふさわしい研究であると判断された。
 


小柴賞受賞者: 小谷 政弘氏(浜松ホトニクス(株)電子管事業部)
        河合 輝典氏(浜松ホトニクス(株)電子管事業部)
研究題目「ハイパーカミオカンデ用Box&Line型 20吋径光電子増倍管の開発」
 
選考理由:
 候補者の小谷氏と河合氏は、次世代超大型ニュートリノ測定器ハイパーカミオカンデに使用可能な、格段に性能が向上した世界最大形のBox & Line型 20吋径光電子増倍管の研究開発に成功した。
 新しい20吋径光電子増倍管は、31%という高い量子効率のバイアルカリ光電面、93%という高い電子収集効率をもつ電極構造、を開発することで、スーパーカミオカンデで使われているものより2倍高い光子検出効率を達成している。
 また、その単一光子検出時間分解能は2.7ns(FWHM)と優れていて、電極構造を新たに開発することで、スーパーカミオカンデのもの(5.5ns)から2倍以上改善している。さらに、その外形形状を最適化したことで125m対水圧水深を満たす仕様を達成し(スーパーカミオカンデのものは60m相当)、深さ71mのハイパーカミオカンデで使用が可能な設計となっている。
 この画期的な性能を持つ20吋径光電子増倍管が採用されれば、ハイパーカミオカンデは大幅な測定器性能の向上が期待できる。
 よって、小柴賞にふさわしい研究であると判断された。
 


熊谷賞受賞者: 深作 正博氏((有)双葉工業代表取締役)
研究題目「超重量加速器機器設置に関する低コスト・省労力化研究」
 
選考理由:
 深作氏は,日本の大型加速器プロジェクトである,KEK PS,TRISTAN,KEKB,J-PARC,SuperKEKBの,特に,加速器,物理実験用重量物の設置作業において,独創的な工夫により非常に効率的に,つまり,短期間かつ低コストで作業を達成させるという実績を挙げてきた.
 推薦書の実績一覧には,主にJ-PARCの加速器,ハドロン,ニュートリノ,KEKB,PF関係の作業が挙げられているが,この他にも,電子陽電子入射器,先端加速器研究施設 ATFや最近では,その手腕を買われて,重力波観測研究施設 KAGRAにおいても重要な作業を請け負っている.
 加速器の開発・建設においては,物品製造であれば,性能仕様ではなくて,構造仕様にすることにより,コストを抑えることは可能であって,実際,多くの加速器では,そのやり方が採用されているところであるが,重量物の設置などの役務の場合は,性能仕様となるので,その性能(価格,工事期間,信頼性,耐久性等を含む)は,受注者の創意工夫によるところが大きい.深作氏が,参考資料に見られるような,発注者が考えもつかないような工夫をこらすことによって,要求された性能を達成されたことは,高く評価されるべきである.
 加速器装置ならびに関連機器の建設に対する深作氏の貢献は,極めて顕著であると認められるので,熊谷賞に値するという結論に至った.
 


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