高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 平成30年度選考結果

2017表彰式
平成31年2月15日に表彰式がアルカディア市ヶ谷にて開催されました。


西川賞

    

發知 英明(日本原子力研究開発機構 研究主幹)
「J-PARC RCSにおける大強度陽子ビームのビーム力学的研究とビームロスの低減」

   

熊谷賞

    

吉沢 克仁(日立金属(株)治金研究所(旧))
「高周波用磁性材料の開発による加速器科学への貢献」

         

選考理由一覧

西川賞受賞者: 發知 英明氏(日本原子力研究開発機構 研究主幹)
研究題目「J-PARC RCSにおける大強度陽子ビームのビーム力学的研究とビームロスの低減」
 
選考理由:
 J-PARC 3GeVシンクロトロン(以下、Rapid-Cycling Synchrotron, RCSと呼ぶ)のような大強度陽子加速器では、ビームロスが出力ビーム強度を制限する。
 大強度加速器におけるビームロスは、複数の効果が絡み合った複雑な発生機構を持つため、この現象を理解し低減を果たすには、より高度なビームの運動学的検討が必須となる。
 發知氏は、現在考えられるビームロスの要因の全てを組み込んだRCSの高度な計算モデルの構築に取り組み成功した。
 空間電荷効果や主電磁石等の各種誤差磁場の影響、磁場リプルによる軌道変動と真空チェンバー上の影像電荷の影響が結合して生じる共鳴現象等、磁場測定やビーム試験で得た結果をひとつひとつ計算モデルに組み込み精度の向上を図った。
 特にビーム軌道変動と影像電荷が関与する共鳴現象は、大強度ビーム特有の新たなロス発生のメカニズムとして、發知氏の研究で初めて明らかにしたものとして評価される。
 このシミュレーションコードを活用し、位相空間の広い範囲に一様に粒子を分布させてビームの空間電荷効果を緩和させるペイント入射法の最適化を計算モデル上で検討した。
 粒子をペイントする経路や範囲を独自のアプローチで最適化し、さらに、誤差磁場由来の共鳴現象を補正する手法などを組み合わせることで、効果的なペイント入射を実現し、ビームロスを大幅に低減させた。
 さらに、RCSを周回するビームの軌道変動と真空チャンバーに誘起される影像電荷との相互作用によって生じる共鳴現象が、ロスの原因となることを見出した。
 これは、大強度ビーム特有の新たなロス発生メカニズムとして評価される。
 これら計算機上で評価した結果は、実際に発生したビームロスの時間構造や絶対量を、従来と比べて一桁高い精度で再現できたことは特筆に値する。
 このように、發知氏が行った一連の研究は、ビームの大強度化を効率的に推進する原動力となり、メガワットクラスのシンクロトロンで世界一とも言える約0.2%という極めて低いビームロスで設計強度1MWの連続ビーム加速を実現させるなど、RCSの所期目標達成に多大な貢献を果たした。  精度の高い数値シミュレーションを実現したこと、また、それを用いたビーム力学的研究により、極限まで低減されたビームロスで1MW加速を達成したことなど、J-PARC RCSにおける大強度陽子ビームの力学的研究とビームロス低減の成果は、Fermilab等の将来計画である大強度陽子RCS設計の参考とされるなど、加速器科学の発展に果たした役割は大きいと認め、西川賞に選考する。  


熊谷賞受賞者: 吉沢 克仁氏(日立金属(株) 治金研究所(旧))
研究題目「高周波用磁性材料の開発による加速器科学への貢献」
 
選考理由:
 吉沢克仁氏は、1981年から2015年まで日立金属(株)に在籍し、長年にわたって磁性材料の開発などに従事してきた。
 吉沢氏はファインメットと呼ばれるFe系ナノ結晶軟磁性材料を開発した。
 この材料は従来のフェライトやアモルファス合金よりも優れた高周波特性を有することからトランスなど様々な製品に応用されるようになった。
 吉沢氏を第一著者とするファインメットに関する論文Journal of Applied Physics 64, 6044 (1988)は、2600を超える引用をされていることからその有用性がわかる。
 陽子シンクロトロンではビーム加速に伴い、加速周波数も変化させる必要がある、従来の 軟磁性材料では,高周波磁気特性が十分ではなく、特にJ-PARCの大強度陽子加速を実現するためには高い透磁率を有する新しい材料が必要であった。
 吉沢氏の開発したファインメットを加速空洞の材料として利用することで、コンパクトで性能の高い空洞を開発することができ、J-PARCシンクロトロンにおける1MWの陽子ビーム加速が成し遂げられた。
 ファインメットの存在無くしては、大強度陽子加速は不可能であったと言える。
 こうして開発された加速空洞はその後、CERNでも利用されるようになっている。
 以上のように、吉沢氏は企業における磁性材料開発で、加速器科学にとって無くてはならない貢献をされてきており、まさに熊谷賞の趣旨に合致すると判断する。
 


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